不動産は、基本的には一点ものになります。
例えば、〇丁目〇番地にある〇〇マンション201号室は、世の中に1つしか存在しません。
ですので、自分が良いなと思って近々契約しようかなと、ぐずぐずしていたら、申し込みに行ったときには、違う方が契約していた、なんていうケースは多々あります。
しかし、その物件に出会ったのが最初の物件だったりすると、この物件よりも、もっと自分の希望に合致する物件に出会えるのではないだろうか、と考えてしまいがちではないでしょうか。
次こそは、次こそは、と探しているうちに、「さっきの物件、良かったな」と思ったお部屋はどんどんなくなっている可能性は高いでしょう。
なぜならみなさん自身が、「良い」と思う物件は、だいたいは、他の方にとっても良い物件である可能性が高いからです。
そこで、「とりあえず」1番手になっておきたいということで「申込金」を業者に渡して、他を探しながらも、キープしておくというやり方をすることもあるかと思います。
他には、「とりあえず」仮契約だけしておいて、他が見つかれば、そちらの物件で本契約しようと考える方もいるのではないでしょうか。
ということで、今回は「仮契約」と「申込み金」のお話をしていきます。
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このページでわかること
1. 賃貸の仮契約とは?
民法上、契約が成立するための基本的な要件としては、「申込み」があって、それを相手方が「承諾」した時点で成立します。
これを、「諾成契約」と言います。
契約とは書面でしなければ有効にならないのではないかと考える方もいるかもしれませんが、次のような状況で想像してみてください。
例えば、居酒屋に行き、店員さんに「ビール1つ!」とみなさんが申し込み、店員さんが「はい、喜んで!」と承諾をすれば、その時点で契約は成立したことになります。
このときに、当たり前ですが、お互いに契約書を交わすことはしません。
物件の賃貸借契約は、「諾成契約」になります。ですので、みなさんが「借りたい」と申し込み、相手方が「承諾」をすれば、その時点で契約は成立します。
ちなみに、お金を払わずに、無償で貸借契約を締結する場合には、諾成契約にはなりません。
そして、お互いに承諾した上で、契約成立条件を変えることは、民法上は許されています。
ということからも、賃貸借の仮契約というものは存在せず、みなさんが「借りたいから、仮契約したい」と言えば、それはイコール「申し込み」とうことになるので、相手方が「承諾」した場合には契約は成立することになります。
2. 申込み金について
先ほどもお話したように、物件を仮押さえするときに「申込み金」を業者に渡して物件をおさえることもあるでしょう。
他には、もう少し賃料が下がれば、契約したいといった場合に、「申込み証拠金」(名称は色々あるので、以下「申込み金」に統一します。)を業者に預けて、家主との交渉をお願いするケース等もあります。
では、金額的には一体いくらが妥当なのでしょうか。
ただ金額に関しては、物件の月額賃料の10%程度といったような明確な基準はありません。
比較的多いケースとしては、10,000円や5,000円程度ではないでしょうか。
簡単にいうと、財布の中をチェックして、ちょうど1万円札があったから、「とりあえず」この金額でお願いします的な感じになることが多いように感じます。
ですので、1,000円だから「無効」ということにはなりません。
3. 申込み金を支払った後にキャンセルは可能?その場合申込み金は返ってくる?
とりあえずの良い物件が見つかったので、他の方にはとられたくないので、仮押さえとして「申込み金」を支払った後、もっと良い物件が見つかったので、そちらの物件を契約することにした場合、「申込み金」はどうなるのでしょうか。
もちろん、あくまで「申込み金」として一応の仮押さえをしただけなので、キャンセルは可能です。
では、その申込み金を返してもらえるのでしょうか。
一般的な考え方のひとつとしては、この申込み金とは「手付」としての性質を有していると思っている方もいます。
「手付」とは、簡単に言えば、契約を「解除」するためのお金ということになります。
例えば、物件の売買契約をしたときに、買主が100万円の手付を支払いました。
その後で、もっと良い物件がみつかったので、買主は契約を解除したいと思いましたが、契約解除をしてしまうと多額の損害賠償を請求されてしまうかもしれないため、解除することができません。
そこで、民法は、相手方が履行に着手していない場合(簡単にいうと何もしていない場合)には、手付金を放棄することによって、契約の無条件解除を認めています。
この権利は、買主だけの権利ではなく、売主にもあります。
売主の場合は、買主から預かっている手付金及び同額の解除金(イコール手付金の倍額)を買主に支払うことにより、契約を解除することが出来ます。
これが、「手付金」です。
みなさんは、「申込み金」と「手付金」の違いがお分かりになったでしょうか。
一番の大きな違いは「契約」です。
手付金を支払う場合には契約は成立していますが、申込み金の場合には、まだ契約は成立していません。
ということからも、申込み金イコール手付金とはならず、業者や貸主等は、受け取った申込み金は相手方に返還する義務があります。
4. 賃貸借契約書にサインした後にキャンセルの場合は?
賃貸借契約書にサインした後でキャンセルしたくなった場合には、どうすればいいのでしょうか。
先ほども申し上げたように、契約は既に成立していますので、その後でのキャンセルとは、イコール「契約解除」ということになります。
この場合は、契約書をチェックする必要性が出てきます。
もしみなさんが契約したのが、「普通建物賃貸借契約」で、解除に関する特約がない場合には、法律上はその期間は解約することはできません。
当然、すでに支払った礼金やクリーニング代の諸費用の返還を求めることもできません。
もしみなさんが契約したのが、「定期建物賃貸借契約」で、解除に関する特約がない場合であれば、少し状況が変わってきます。
その場合には、居住用として借りていて、床面積が200平方メートル未満で、やむをえない状況であるならば、解約は可能になります。
ただし、1ヶ月前に解約通知をする必要があるため、1ヶ月分の賃料を支払う義務はありますし、当たり前ですが、諸費用等の返還を求めることはできません。
前記2点に関してですが、借地借家法上はこのように書かれていますが、実務においては、解除の特約が書かれていない契約書は見たことがありません。
ただし、書かれていることが「当たり前」だと思っていると、思わぬ落とし穴にはまってしまい、どうしようもなくなることもありますので、あくまで「解除」に関しては、特約であることを認識するようにしておいてください。
以上が、法律上の話になりますが、実務においては、解釈が違ってくることも多々有ります。
業者等に状況を説明すれば、解除を認めてくれることもあるでしょう。
実際に、過去には、私自身も契約書を締結した後に、大きく状況が変わってしまったため、業者にお願いしてキャンセルしてもらったこともあります。
支払ったお金の全額ではありませんが、ほとんどのお金を返してもらうことができました。
5. まとめ
みなさん、いかがだったでしょうか。
「仮契約」と「申込み金」に関しては、いろいろなトラブルを聞いたことがあります。
よく聞いたのが、「業者が申込み金を返してくれない」というものでした。
たぶんみなさん自身も、どこかで「手付金」なのだから返してもらえないのでは、とか、せっかく交渉してもらったのだから、返してほしいとは言いづらい、とかになったこともあるのではないでしょうか。
しかしながら、契約は成立していませんので、業者等にはその申込み金を返還する義務があります。
ただし、だからといって、返還義務があるのだから返すのが当然だという態度は、できればやめておいた方がいいでしょう。
業者側の立場になれば、その時点で次のお客さんにはその旨を説明する必要がでてくるため、動きをとめることにもなりかねません。
最終的には、「人対人」ですので、法律だけを厳格に当てはめるのではなくお互いが気持ちよく契約できるようにしていきましょう。




