賃貸住宅では、退去するときに入居した時と同じ状態に戻すことが入居者の義務です。
このことを「原状回復」といいます。
でも壁紙の場合、どこまでのキズ・汚れ・破損を借主が回復しなければならないのか、よくわからない人の方が多いのではないでしょうか?
そこで今回は、壁紙の原状回復の範囲について分かりやすく解説してみたいと思います。
原状回復の費用の目安や費用相場、さらに壁紙の原状回復でトラブルになりやすい事例なども併せて紹介します。
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このページでわかること
1. 賃貸の原状回復の範囲はどこまで?【壁紙編】
賃貸住宅の場合、退去する際に原状回復をするのが入居者の義務です。
借主であるあなたとしては「入居した時と同じ状態に戻すこと=原状回復」とイメージしているかもしれませんが、「あなたが故意にキズ・破損・毀損させた場合にそれを元通りの状態にする義務がある」というほうが原状回復のイメージに近いです。
ここでポイントになるのは「通常の利用をしていた場合」ということです。
通常の利用でできる破損とは、借主(あなた)以外の人が住んでいたとしても一般的についてしまうキズ・破損などのことを言います。
そのため通常の利用をしているのにできてしまったものについては貸主(大家さん)の負担になります。
逆にあなたが故意に壊してしまったものについては、原則として借主の負担となります。
1-1. 貸主負担になるもの
グレードアップとして壁紙全体を張り替える場合
借主であるあなたが故意につけてしまった壁紙の破損であっても「物件のグレードアップのための張替え」とみなされる場合は、貸主である大家さんが負担するのが妥当と考えられています。
たとえば、あなたがつけてしまった壁紙のキズが直径5cm程度のキズだったとしましょう。
このキズを修復する費用であれば、当然借主であるあなたの負担になります。
でも「壁紙の張替え工事をするのなら、グレードアップした壁紙を使おう」と大家さんが考えたとすると、単なるキズの修復とは話がちがってきます。
グレードアップするのであれば、あなたが傷つけた部分の壁紙も部屋全体の壁紙と併せる必要がでてきます。
でもこれだと入居者であるあなたには何の得もありませんよね?
大家さんの希望によってグレードアップした壁紙に張り替えるのであれば、「元の状態に戻す」(原状回復)とは言い切れません。
そもそも修繕する部分の壁紙の単価が上がれば、とうぜん修繕費用も高くなります。
このようなケースで高額な修繕費用を請求された場合は、不動産業者(仲介業者)と相談して原状回復として妥当な費用の請求をしてもらうようにしましょう。
ただし、そもそも入居した当時の壁紙を使って修繕作業を行うのであれば、それにかかった費用は借主の負担となります。
入居時の壁紙による修繕作業であれば、「入居した状態に戻す」という原状回復の原則に則っているからです。
1-2. 借主負担になるもの
壁紙の修繕費用が借主の負担となるのは、「あなたが故意に破損させた場合」と「必要最低限の手入れを行っていなかった場合」になります。
まず「あなたが故意に破損させた場合」については、原状回復の原則から考えても当然あなたに負担する義務があります。
あなたが破損させなければ壁紙の張替えは必要なかったのですから、その修繕費用を大家さんが負担する義務はありません。
問題は「必要最低限の手入れを行っていなかった場合」です。
長く暮らしていれば壁紙も汚れが出てきます。
でも汚れの中には普段からきちんと手入れをしていれば落ちていたはずのものも含まれます。
例えばキッチン周辺の壁紙の場合、調味料などが壁についてしまった時点で適切に拭き取り掃除をしていればシミや落ちない汚れとならないこともあります。
また天井近くの壁についても「1年に1度は拭き掃除をする」「カビが生えないように定期的に換気をする」などを心がけていれば、壁紙の張替えが必要になるほどひどい汚れとならないこともあります。
ガイドラインでも提示されているように「通常の利用の範囲」というのは、日常生活で最低限入居者が行うお手入れ(お掃除)のことも含まれています。
つまりこれを怠ったことが原因で壁紙に汚れがついてしまった場合は、借主であるあなたが修繕費用を負担することもあります。
2. 賃貸の壁紙を張り替えるための費用相場
壁紙の原状回復に関するトラブルは多いとされ、請求される費用についても納得がいかないという声も聞かれます。
そのため、賃貸契約書の中には原状回復に関する工事費用の目安(細かく記載されている場合は単価)も書かれています。
一般的に壁紙の張替えとなると、工事費用には原材料費と作業費が含まれます。
賃貸住宅で使われる壁紙は量産品(単価が安い壁紙)が多いのですが、それでも1㎡あたり800~1000円が相場です。
これに加えて、張替え工事費がかかりますので、修繕費用の目安としては1㎡あたり1000円前後となります。
注意しなければならないのは、修繕の単位は「1㎡あたりで計算する」ということです。
たとえ小さな破損であっても、そのわずかな部分だけを張替えするということはありません。
確かにこれなら破損した部分はきれいになりますが、この状態をもって「適切に修繕をした」とは言い切れないのです。
ですから小さな破損であっても、全体から見て問題のない程度までは「借主が負担する修繕の範囲」と考えます。
3. 賃貸退去時の壁紙のクリーニングでよくあるトラブル
契約書に「特約」があった場合
契約書にはさまざまな契約やルールが書かれていますが、それぞれの項目には「特約」と書かれている部分があります。
この「特約」に壁紙の原状回復に関する項目が含まれている場合に、トラブルが起こりやすいと言われています。
国土交通省の「原状回復に関するガイドライン」では、修繕費用の目安や単価も賃貸契約に記載することを推奨しています。(このガイドラインが公表されたのは平成23年のことです。)
そのため最近の賃貸契約書では、トラブルを避けるために修繕費用の目安についてもできるだけ細かく書かれるようになってきました。
ただし「特約」で「クロス張替え費用」と書かれている場合は注意が必要です。
クロス張替え費用として書かれている場合は、その費用の目安は記載されていません。
そのため、いざ金額を聞いた時にビックリしてしまうこともあります。
基本的に原状回復の費用は契約時に支払った敷金から差し引かれるのですが、クロス張替え費用が高額な場合は手出しとなることもあります。
ですからこのようなトラブルを避けるためには、特約に「クロス張替え費用」と書かれていた場合でもできる限り具体的な費用の目安を契約時に確認しておくことです。
ペットOKの物件の場合はクロス張替え費用が高額になることが多い
賃貸住宅ではペットOKとなっている物件の方が少ないのですが、「ペットも家族の一員」という考え方が定着している今では希少物件ですが非常に人気があります。
でもペットOKの物件の場合、ほとんどが契約書の原状復帰の特約に「クロス張替え費用」と書かれています。
そもそもペットがいる部屋は、ペット独特の臭いがあります。
こうした臭いは同居している入居者にはあまり感じないものなのですが、ペットが苦手な人は不快に感じる臭いです。
しかもその臭いは壁紙にもしみついているので、基本的に退去時には壁紙を全部張り替えます。
もちろんペット専門のハウスクリーニングで対応するケースもありますが、ペットOKの物件の場合はペットNGの物件よりも原状回復にかかる修繕費用が高くなる傾向があります。
この点もきちんと理解しておかないと、退去の時にトラブルになりかねません。
4. まとめ
賃貸住宅の壁紙は、経年劣化によって張替えが必要なこともあります。
でも基本的にどこまでの範囲を原状回復として借主が負担しなければならないのかは、契約時に手渡された賃貸借契約書に書かれています。
退去の際にトラブルに巻き込まれないためにも、気になる場合はきちんと契約書の内容を確認することがまず必要です。
その上でどうしても不安がある場合は、仲介してもらった不動産会社に相談するのがおすすめですよ。




