両親や親戚から受け継いだ土地でも、使う予定がないと税金ばかりがかかってしまいます。
そんな土地を有効活用するために、土地の貸し出しを検討する人も多いと思いますが、土地の賃貸には多くのトラブルや落とし穴があります。
最悪の場合は大切な土地を他人に何十年も占有されてしまうという可能性もあるのです。
土地の賃貸契約にまつわるトラブルや関連する権利・法律についての解説を行いますので、土地の貸し出しを検討している人はもちろん、すでに貸し出している方もぜひご覧ください。
トラブルを未然に防ぐお手伝いができるはずです。
このページでわかること
1. 【土地を賃貸】契約書を取り交わすときに起こりがちな落とし穴とは!
土地の賃貸を行う際には、貸主(地主)と借主の間に契約を結んでさまざまな取り決めを設けます。
契約書には建物の建築関連・譲渡や転貸・賃貸借期間や賃料など、非常に重要な内容が記載されることになります。
トラブルが発生した場合はこの契約書に則って処理を行うことになりますが、思わぬ落とし穴が潜んでいることがあるのです。
1-1. トラブルの多くは借地権に関係するもの
借地権というのは、土地を借りることに関わる権利で、簡単にまとめると「借りた土地に自己所有の建物を建設できる権利」です。
つまり、あなたが地主である場合、貸した土地に建物を建設する許可を与えた場合には、借主に借地権を与えたことになります。
借地権が発生すると、後述する「借地借家法」という法律が適用されることになります。
借地借家法は現在2種類あり、「旧借地借家法」と「新借地借家法」で区別されています。
旧法は借地権者の立場を守る力が強く、貸主との間に多くのトラブルが発生していました。
新法では双方の便宜が考慮されており、貸主側も守られています。
しかし、現状では新法と旧法が混在する状態になっており、まだまだ土地賃貸契約の借地権にまつわるトラブルは多い状態が続いています。
1-2. 貸主(地主)にとっての思わぬ落とし穴1
旧借地借家法が適用されている土地の賃貸契約では地主にとっての落とし穴が多いです。
最も多いのは、借主が土地に建物を建設したことで借地権が発生し、契約期間が終わっても土地を返してもらえないというトラブルです。
旧借地借家法が適用された場合には、最初の契約時に期間を定めなければ、建物が木造やプレハブの非堅固建物だとしても30年、コンクリートや鉄筋の堅固建物の場合だと60年は土地ごと占有されることになってしまうのです。
(参照:https://shakuchi-madoguchi.com/jinushijirei/shakuchisonzoku#i-3)
当事者同士で借地期間を事前に定めておいた場合でも、最低期間が非堅固建物は20年、堅固建物30年と定められています。
つまり、軽い気持ちで5年間だけのつもりで知り合いに土地を貸したら、相手に借地権が発生して何十年も返してもらえなくなってしまったというトラブルが発生する可能性があるわけです。
1-3. 貸主(地主)にとっての思わぬ落とし穴2
土地を返してもらえないというだけでも大変な問題ですが、返還されたとしても安心できません。
借主が建設した建物の所有や処分をどうするかという大きな問題が残っています。
借主が建物の買取を貸主に求めて来たり、老朽化した建物の解体費用をどちらが負担するかでもめたりするなど、多くのトラブルが発生しやすいからです。
新借地借家法では契約期間満了時の対応が明確に定められていますが、旧借地借家法が適用されている場合は要注意です。
仮に貸主側が訴えを起こしたとしても正当な理由がなければ更新の拒絶や明け渡し、更地返還などは認められることがありません。
1-4. 借主にとっての思わぬ落とし穴
借地借家法が適用されている土地を借りる場合は、借主にとっての落とし穴はあまりありません。
しかし、あくまでも土地は貸主のものですので、諸手続きには手数料や貸主の承諾が必要になります。
借りた土地に住居を構えたいと思っていても、契約内容次第では許可されないことがあったり、住居を構えた後でも増改築や売却・譲渡に貸主の承諾が必要になったりします。
手数料も余分にかかる事が多いので注意が必要です。
2. 【土地を賃貸】借地借家法ってなに?
では前述した「借地借家法」とは実際にはどのような法律なのでしょうか? 借地借家法は19992年8月に施行された新借地借家法と、それまでの旧借地借家法に分かれています。
新法が施行された後の契約はすべて新法が適用されていますが、それ以前の契約の場合は旧法が適用されたままです。
新借地借家法と旧借地借家法に分けて詳しく解説していきます。
2-1. 新借地借家法
新借地借家法は定期借地権というものが定められ、ほとんどがこの定期借地権を適用させて契約となるため、そのまま「定期借地権」と呼ぶ場合もあります。
この法律の特徴は借地権が複数個に分けられており、貸主側が安心して大切な土地を他人に貸し出せるようになっている点です。
どのような借地権があるのか一つ一つ解説をしていきます。
| 分類 | 借地期間 | 利用目的 | 期間満了時の対応 | |
| 定期借地権 | 一般定期借地権 | 50年以上 | 限定なし | 更地にして明け渡す
地主への買い取り請求は不可 |
| 建物譲渡特約付き
借地権 |
30年以上 | 限定なし | 建物の所有権は地主に移転。貸地人には対価を支払う。請求により譲渡した建物を借りることが可能。 | |
| 事業用借地権 | 10年以上50年未満 | 事業用建物限定
住宅は不可 |
更地にして明け渡す
地主への建物買い取り請求は不可 |
|
| 普通借地権 | 30年以上 | 限定なし | 更新がない場合、借主は建物の買い取り請求が可能 | |
最もシンプルなのが一般定期借地権です。
50年以上の賃貸契約を行い、期間が満了した場合は建物を解体して土地を地主に返還するという契約です。
建物譲渡特約付き借地権は期間満了時に地主が建物を買い取る契約で、建物を売却した時点で借主側の借地権はなくなります。
居住を希望する場合は所有者となった地主との間に借家契約を締結することになります。
事業用借地権は公正証書による契約が要件となっています。
住宅など居住目的の建物の建設はできず、賃貸マンションなども対象になりません。
このように貸し出す期間や契約期間満了後の対応が明示されているため、新法では地主と貸主との間でのトラブルが少なくなっています。
2-2. 旧借地借家法
旧借地借家法では、建物を「堅固建設」「非堅固建設」の2つに分けています。
堅固建設は石・コンクリート・レンガなどの建築物、非堅固建設は木造・プレハブ造りなどが対象となっています。
旧借地借家法ではこの建物の分類により、さまざまな取り決めが定められています。
当事者同士で期間の取り決めがなかった場合、堅固建設の場合は60年、非堅固建設の場合は30年借地権が存続します。
更新後はそれぞれ30年・20年と短くなっており、建物が何らかの理由で消滅した場合は借地権も同時に消滅することになります。
旧借地借家法では契約満了時の取り決めがないため、当事者同士での約束が重要になります。
契約時に取り決めがなかった場合、更地にする際の解体費用の負担や建物の買い取り請求などでもトラブルが起こりやすいです。
2-3. 借地借家法の適用対象にならないこともある
借地借家法が適用されるのは「建物の所有を目的とする土地の契約(貸地契約)」「建物の賃貸借を目的とする建物を貸す契約(借家契約)」です。
借家契約は言葉のまま建物を貸す契約ですが、貸地契約は土地の上に建物を建設していることが条件となります。
つまり更地のままでは借地借家法が適用されないというわけです。
建物といってもさまざまあり、建設を行っても借地借家法が適用されないことがあります。
一時的に使用することが明確な建物がこれに当てはまります。
これは期間の長短だけで決められるものではなく、使用目的やその他諸々の条件で決められることになるのです。
例えばサーカスやお祭りなどの期間限定のイベントのために土地を借りる場合がこれに当たります。
将来的に確実に取り壊しが決まっており、一時的な使用が明確であるからです。
このような場合は借地権が発生せず、借地借家法は新旧どちらも適用されることがありません。
3.【土地を賃貸】トラブルが起こる前に確認したいこと
借地借家法や借地権の発生についての解説をしてきました。
複雑な部分が多く、仮にすべて理解した上で契約を行っても思わぬトラブルが発生してしまうことがあります。
そのような事態を未然に防ぐために、いくつかのポイントをしっかりと確認しておきましょう。
3-2. 新借地借家法で契約を行う場合の分類
前述したように、新借地借家法で適用される借地権には3つの分類があります。
契約を結ぶ際には貸主である地主側はもちろん、借主側もどこに分類にされているのか必ず確認してください。
特に契約期間満了時の対応は重要です。
ずっと先のことなので忘れてしまいがちですが、将来的に土地や建物をどうしたいのかを考えて契約を結ぶようにしましょう。
3-2. 借地借家法は自動で切り替わることがない
すでに借地借家法を旧法で結んでいた場合、契約更新を行っても自動で契約内容が新法に切り替わるわけではありません。
新法に切り替えたい場合は、貸主と借主の間に新たに契約を結ぶことになります。
自動で切り替わっていると思い込んでいて、期間満了時にトラブルが発生するという可能性もあるので、新法を適用したい場合は必ず貸主と相談して契約をし直してください。
3-3. 当事者同士の契約は無効になることがある
契約期間のトラブルに多いのが当事者同士の契約絡みです。
知り合いとの間に5年で満了する土地の賃貸契約を結んでいたとしても、借主側が返したくないといった場合は、借地借家法により最低でも10年は土地が戻ってこなくなります。
法律で定められている最低期間以下の賃貸借契約はすべて無効になる可能性があることを理解しておきましょう。
短期間での貸し出しをしたい場合は、借地借家法が適用されない「土地使用契約書」を取り交わした方が安心です。
4. まとめ
都心部への人口集中や少子化により、特に地方では土地が余っている状態が増えています。
両親が住んでいた土地を相続したものの、自分たちが住む予定もなく、土地や建物を持て余しているという人も多いです。
そんな時に思いつく土地や建物の賃貸契約ですが、借地借家法を知らないと思わぬ制限を受けて「こんなはずじゃなかった」ということになってしまいます。
特に当事者同士でのみの契約は知識が足りないと大きなトラブルを招いてしまいます。
不安な場合は弁護士や不動産業者などに相談し、大切な土地や家を守りながら活用できる道を探してみてください。
すでに土地の賃貸契約を結んでいる場合も、旧法のままだと契約期間満了時にトラブルになる可能性があります。
新法で契約を結び直し、責任や返還時の条件を明確にしておいてトラブルを回避できるようにしましょう。




