賃貸住宅を退去する場合、借主であるあなたには「原状回復の義務」があります。
もちろん原状回復に関する費用は賃貸契約の際に支払った敷金から差し引かれるのですが、修繕箇所や費用などで借主と貸主のあいだでトラブルになる場合があります。
そこで今回は賃貸住宅の原状回復で借主が負担する範囲について詳しく解説!
貸主負担となる場合とのちがいや、借主・貸主がお互いに負担する場合の負担割合についてもわかりやすく説明します。
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このページでわかること
1. 賃貸の原状回復にかかる負担割合とは?
賃貸住宅を退去する時の原状回復というと、借主であるあなたは「借りたときの状態に戻す」というイメージがありますよね?
でもこれは正しい原状回復の解釈とはちょっと違います。
賃貸住宅といっても入居期間が長ければ、部屋の設備そのものが経年劣化することもあります。
たとえば、フローリングや壁などはどんなに手入れをしながら住んでいたとしても、10年以上も経過すればそれなりに古くなります。
これを「借主側の原状回復の範囲」とされると、さすがにあなたとしても「それはちがうでしょ?」と言いたくなるはずです。
そのため、退去時の原状回復の負担は、借主であるあなただけでなく貸主である大家さんも負担します。
そこで、「どの範囲までをどちらが負担するのか?」ということをお互いが納得できる方法で決める必要があるのです。
1-1. 負担割合の決め方
普通の使い方をしていれば借主が負担することはほとんどない
一般的な生活をする上でできてしまうキズやシミ、汚れはあります。
「原状回復=借りた時と同じ状態に戻す」と考えていると、こうしたキズやシミなどもあなたが負担しなければいけないと思ってしまうはずです。
でも一般的な生活でできたものについては、借主の負担の範囲ではありません。
ですからあなたが費用の請求を受けることもありません。
借主が原状回復の費用を負担しなければならないのは、「善管注意義務」を怠った場合になります。
「善管注意義務」を怠った場合は借主負担になる
「善管注意義務」とは、民法で定められている入居者の義務で、具体的には「日常生活の中で必要最低限の掃除や手入れを行う義務」のことです。
この義務に反した場合、借主であるあなたは原状回復をするときに費用の請求を受けます。
でも難しいことを求められているわけではありません。
あなたも普段から部屋の掃除をしますよね? 掃除機をかけたりお風呂やトイレの掃除をするのは、特別なことではないはずです。
また、浴室や窓に結露が出来てカビが生えてしまったとき、専用の除去剤などを使って掃除をすることもよくあることですよね?
こうした「普段のお掃除の範囲」として考えられる内容が「善管注意義務」の範囲になります。
簡単に言うと、「普段のお掃除の範囲」のメンテナンスを怠ったことでできたキズや汚れ、変色、破損については借主負担になるということです。
次の入居者のためのグレードアップ工事は貸主負担
あなたが退去する場合、貸主は次の入居者の募集を同時に進める必要があります。
そのとき、少しでも良い条件で次の入居者が決まるように、あなたの退去後にはグレードアップした内容で修繕工事を行うことがあります。
さすがにこれは、借主であるあなたの負担としては妥当とは言えません。
もちろんあなたが故意で破損させてしまった場所があれば、その修繕費用はあなたが負担しますが、あくまでも「現状の回復のための修繕」ですから原状回復以上の費用を支払う必要はありません。
ただし、どこまで費用負担するかはよくトラブルになります。
正当な費用であるか判断してもらうためにも、必ず仲介業者(不動産会社)や第三者の立ち合いの上で説明を聞くようにしましょう。
またその場合には、契約時に手渡された賃貸借契約書を持参することも忘れないようにしましょう。
2. 借主負担の原状回復の費用はどこまで?
原状回復に関する借主と貸主のトラブルは多いです。
過去には原状回復の負担の割合をめぐって裁判になったこともあります。
こうしたこともあって国土交通省では原状回復の負担範囲を具体的に示した「原状回復のガイドライン」を作成しています。
その内容をもとに「借主負担になる場合」と「借主負担にならない場合」を説明します。
2-1. 借主負担になる場合
フローリング・床に関すること
フローリングに関することで借主負担になるのは、「借主の不注意によって起きたキズ・シミなど」と考えます。
たとえば、引っ越しや部屋の模様替えの場合にできてしまったフローリングのキズは「借主負担」となります。
またあらかじめ床にカーペットが敷かれている場合、飲み物や食べ物をこぼしてしまったときに適切に汚れを落とさなかったことでできたシミも「借主負担」となります。
意外と見落としがちなのが「冷蔵庫下の汚れ」です。
冷蔵庫は一度設置場所が決まると、ほとんどそこから場所を変えることはありませんよね? そのため、この部分の汚れに気が付かないまま、長年放置されていることがよくあります。
でも冷蔵庫の底の部分はサビが起こりやすいです。
これを放置していると、冷蔵庫を設置している部分の床にサビ汚れがついてしまいます。
サビ汚れがひどい場合は床の張替えが必要になることもあります。
このような場合は「借主負担」となります。
壁紙に関すること
壁紙に関することは「日常生活で必要最低限の手入れをしていたか」がポイントになります。
たとえば、窓やキッチン周辺は結露が起こりやすい場所です。
この結露対策をきちんとしていなければ、結露の影響が壁紙にも出てきます。
湿気によって壁紙にカビやシミができてしまうのです。
でもこのケースの場合、結露対策をきちんとしておけば壁紙にカビやシミができる(広がる)ことは防げたはずです。
そのため、このような場合は「借主負担」となります。
もちろんタバコのヤニが原因で壁紙が変色したり臭いがしみついている場合も「借主負担」です。
同じ考え方で、ペットの臭いがしみついた壁紙も「借主負担」となります。
浴室・トイレ・洗面所に関すること
浴室やトイレ・洗面所といえば水回りの設備ですよね? この部分で問題になるのが「水垢」「カビ」です。
こうした水垢やカビは普段のお掃除をきちんとしていれば、ある程度は落ちるものです。
こうした日ごろのお手入れは入居者が行う義務でもあります。
つまり、こうした日ごろの手入れを怠ったことによって、水垢やカビがひどくなった場合は「管理を怠った」と判断されるため、借主負担となります。
2-2. 借主負担にならない場合
壁・壁紙に関すること
壁や壁紙には写真やポスター、子どもの賞状などを飾っておくことが多いですよね? この時に画鋲やピンなどで壁に貼り付けると、壁や壁紙に穴が開きます。
また長年同じ場所にポスターを張っていれば、当然その部分の壁紙は変色します。
このようなケースは「借主負担にはならない」と判断します。
またテレビや冷蔵庫などの大型家電が置かれていた壁には、電気焼けによる黒ずみができます。
これは通常の生活をする上でできるキズと判断されるので、借主の負担にはなりません。
床に関すること
食器棚や冷蔵庫、収納棚など重量のある家電や家具を置いていると、その接地面となる床にはへこみや設置した跡が残ります。
これも通常の生活をしていればできるキズと考えられますので、借主の負担にはなりません。
その他借主の負担にならないこと
建物の構造上の理由で、建物内部に変色・変形・破損が起きてしまうことがあります。
この中にはフローリングや畳の変色なども含まれます。
ただしフローリングと畳の変色については、はっきりと「借主の負担ではない」と言い切れません。
あくまでも「建物の構造上によって起きてしまった変色であること」が条件となるので、それ以外のことで変色した場合は借主の負担となります。
ちなみに窓ガラスに亀裂が入ってしまった場合、借主が新しいものに取り換えて元通りにするのが原則です。
ただ網入りガラスの場合については、借主の負担とならないのが基本です。
これは構造上の理由で発生してしまう自然なキズ・破損と判断されるので、入居中に亀裂が起きた場合も早めに連絡をすれば大家さんが新しいものに取り換えてくれます。
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3. 賃貸退去時によくあるトラブルと対処法
借主・貸主それぞれが「経年劣化の範囲」について違う考えを持っていることが多い
退去時の原状回復では、「経年劣化によるキズ・破損」は借主の負担とはなりません。
ただし「どこまでの範囲が経年劣化の範囲として認められるのか」については、借主・貸主の間で考え方にちがいがあることが多いです。
お互いにできるだけお金の負担は避けたいのが本音ですから、少しでも自分に有利な判断になるように考えたいのはもっともなことです。
そのため原状回復に関するガイドラインができるまでは、よくトラブルが起きました。
ただし、ガイドラインができたといっても問題がなくなったわけではありません。
ガイドラインの内容をきちんと把握していない仲介業者もいます。
このような場合、大家さんが請求する内容を擁護するような態度をとることがあります。
こうなると請求される借主側のあなたとしては、請求内容や費用に納得できなくなります。
そこで、経年劣化の範囲や費用は、退去時の原状回復トラブルで筆頭に挙げられる場合があるのです。
トラブル回避のためのポイント
退去時の原状回復でトラブルに巻き込まれないためには、賃貸契約書の内容をきちんと確認することが大切です。
賃貸契約書には、退去時の原状回復の範囲についてもきちんと書かれています。
また国土交通省の「原状回復に関するガイドライン」では、退去時にトラブルを避けるためにも賃貸契約書に原状回復にかかる費用の目安まで書き入れることをすすめています。
ですから、賃貸契約書を確認すれば、「どこまでの範囲を借主であるあなたが負担するべきか」「費用の目安はいくらなのか」が分かるようになっています。
この内容をきちんと理解していれば、明らかに不当と思われる修繕費用の請求があってもそれを断ることができます。
4. まとめ
退去時の原状回復に関するトラブルは、本当にいろいろあります。
借主と貸主の両方に「どこまでが負担すべき範囲なのか」ということがはっきりとわかっていないということも、トラブルが起こる一因といえます。
ただし、トラブルがその場で解決せずに裁判にまで発展するとなると、さすがにイヤなものですよね? そのためにも賃貸契約書の内容をよく理解し、どこまでが借主として負担すべき範囲なのかを確認しておくことが大事なポイントになるのです。





