賃貸住宅では、退去するときに入居した時の状況に戻すことが入居者の義務です。
これを「原状回復」といいます。
実際に賃貸住宅に入居した経験がある人であれば「原状回復が必要」ということはご存知でしょうが、どのような状態に戻すことを原状回復というのかについては詳しくわからない人も少なくないのではないでしょうか?
そこで今回は賃貸住宅を退去する時の「原状回復義務」について分かりやすく解説!トラブルになりやすい退去時の原状回復について、国土交通省の「原状回復に関するガイドライン」をもとに、詳しく説明していきます。
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このページでわかること
1. 賃貸退去時の原状回復義務とは?
原状回復というと「入居した状況に戻すこと」というイメージがありますよね? たしかにこのイメージは一部正しいですが、すべてが正しいというわけではありません。
たとえば、「賃貸住宅では壁に傷をつけるのはNG」といわれますが、場合によっては、借主が負担しなくてよい場合もあります。
また、床のフローリングのワックスがはがれた場合、「きちんと修繕費用を払うのが当然」と思われるかもしれませんが、そうとは限らないのです。
とはいうものの、借主負担が発生する場合もあります。
とくに最近人気がある「賃貸住宅のDIY」については注意が必要です。
賃貸住宅でもDIYで改装することによって部屋の雰囲気や使い方を変えることができますが、大きな改装を行った場合には、退去時に原状回復を求められるケースが多いはずです。
そこで、どんな場合であれば、原状回復が必要なのか、しっかりと把握しておく必要があるのです。
2. 国土交通省の原状回復ガイドライン
ガイドラインが定める「原状回復」とは
国土交通省は、借主と貸主とのあいだのトラブル防止を目的として、あるべき原状回復の費用負担の考え方を説明したガイドラインを作成しています(国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、2011年)。
このガイドラインには以下のように書かれています。
「建物の価値は、居住の有無にかかわらず、時間の経過により減少するものであること、また、物件が、契約により定められた使用方法に従い、かつ、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのまま賃貸人に返還すれば良いとすることが学説・判例等の考え方である」
ここで気づくのは、「一般にイメージされている原状回復と国土交通省のガイドラインが説明している原状回復はちがう」ということです。
多くの入居者がイメージする原状回復は「入居した時と同じ状態に戻すこと」だと思いますが、ガイドラインの定義を見るとそうではないということがわかります。
ガイドラインには「原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではない」と書かれています。
つまり、「すべてもと通りにして返すことが原状回復ではないのですよ」と述べているのです。
それでは、原状回復とはどのようなことを指すのでしょうか。
ガイドラインは、以下のように定義しています。
「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」
つまり、借主の故意・過失による損傷や、通常の使用の範囲を超えるような使用で生じた損傷などがなければ、借主は原状回復の負担をしなくてよいと説明しているのです。
「通常の使用の範囲」とは?
ガイドラインの定義の中で「通常の使用の範囲」とありますが、この表現ではちょっとあいまいですよね?
じつは、ガイドラインも「『通常の使用』といってもその範囲はきわめて広く、判断基準そのものを定義することは困難である」としているのです。
そこで、国土交通省は、「通常の使用の範囲」に含まれるケースをAやBに分けて説明しています。
まず、人がそこで生活している以上、必ず発生すると考えられるキズや破損を「A」と分類しています。
この場合は借主に原状回復の義務はありません。
一方、「明らかに通常の使用の範囲とはいえないもの」を「B」としています。
こちらはいわばグレーゾーン。
必ずしも通常の使用の範囲とはいえないものの、通常の使用の範囲に含まれるとも考えられるため、「修繕費用の一部は借主が負担してください」「この部分の破損についてはあなたに原状回復の義務があります」と個別に判断する必要があるという区分です。
故意にキズや破損を生じさせたわけでなくても、場合によってはあなたに修繕費用の負担が求められる場合もあるのです。
3. 賃貸の原状回復にかかる費用相場
賃貸住宅の原状回復では、修繕にかかる費用負担の責任は貸主・借主の両方にあり、ガイドラインなどを参考にしながら、どこまでがどちらの負担になるのか判断する必要があります。
借主の使用法や損傷や劣化の場所・程度などによって、費用負担責任の所在も変わってくるのです。
では、費用を負担する場合、どのくらいの金額が必要になるのでしょうか?
そこで、以下では、各ケースの費用相場について見てみましょう。
壁にできたネジ穴の修繕
ネジを使って壁に穴をあけた場合、穴の大きさも深さもかなり広いです。
ですから、この穴を修繕する修理が必要になります。
修繕そのものはパテなどを使って穴を埋めればよいのですが、問題は壁紙にも穴が開いてしまうことです。
この場合は壁紙の張替えが必要になります。
壁紙の張替えは、穴が開いた部分だけを張り替えるというわけではありません。
基本的には1㎡単位で張替えを行います。
壁紙の材料費のほかにも張替え工事費が発生するので、賃貸住宅であれば1㎡あたり1000円程度が費用の相場になります。
もちろん穴の修繕作業も含まれますので、「穴の修繕&壁紙の張替え」では1000円以上が費用相場だと考えた方がよいでしょう。
障子戸の修繕
障子戸の原状復帰は壁の修復よりもやや複雑です。
障子戸は、紙でできた「障子紙」と木枠である「障子戸」に大別されます。
障子紙は「消耗品」と考えますが、障子戸の方は「建具」(開閉機能がある仕切り)と考えます。
建具は一般に設備の一部と考えますので、障子戸もあなたが故意に壊したわけでなければ、修繕費用を請求されることはまずありません。
一方、障子紙の方は「紙製品」ですので、破れたり部分的に剥がれることもありますよね? この場合は「入居者が費用を負担」「大家さんが費用を負担」「入居者と大家さんの双方が費用を負担」の3パターンとなります。
ちなみに費用を抑えるために自分で障子紙を張り替えるのは、あまりおすすめしません。
こちらも大家さんの判断次第になるのですが、場合によってはあなたがあらかじめ取り付けられた障子紙を取り外したことを「故意に破損させた」ととらえることもあります。
このように解釈されると、あなたがいくらキレイに張り替えたとしても「もと通りの状態に戻してください」といわれ、結果的に修繕費用を請求されるおそれがあります。
ワックスが剥がれてしまったフローリング
フローリングのワックスが剥がれてしまうのは、基本的に「経年劣化」と考えます。
ワックスは時間とともに少しずつ剥がれてしまいますが、普段のお掃除の中で「フローリングは拭き掃除の後ワックスをかける」ということは一般的とは言えません。
またワックスをかけることには「床の保護」という目的もあります。
床素材をきちんと保護しておかなければ、床材が腐食・破損し床そのものが危険な状態になることもあります。
ワックスにはこれを防ぐ効果もありますので、原則として貸主である家主の負担と考えるのが一般的です。
床のキズ
床のキズについてもトラブルが起こりやすいです。
一般的な使い方をしていても、床に傷がついてしまうことはよくあります。
でも「家具の移動で付いてしまった傷」「椅子を移動したときにできたキズ」などの場合は、借主であるあなたの過失であると判断されることがあります。
この場合は「借主の負担」または「借主・貸主の双方が負担」となることが多いです。
ちなみに家具を長年置いたことによって床の一部がへこんでしまった場合は、原則として貸主が修繕の負担をすると考えます。
これは長く住み続けていれば当然起こることと考えられるためです。
ただし家具を置いたことによって床の一部が変色してしまった(色が褪せてしまった)という場合は、判断が難しいです。
場合によってはあなたにも修繕費用の一部が請求される可能性もあります。
4. 賃貸退去時のトラブルを防ぐ方法
家具の移動には細心の注意を!
床に傷が付いた時の修繕費用はかなりの高額になります。
ですから引っ越し時や模様替えなどの時に家具を移動する際は、傷をつけないように細心の注意を払うようにしましょう。
椅子には「キズ防止カバー」をつける
ダイニングルームに置かれた椅子は、普段からよく移動をしますよね?
もちろん「イスに座るとき」「席を立つとき」には傷をつけないように気を付けるはずですが、椅子に座った状態で少し椅子の位置をずらす時などは座ったままの状態で動かしてしまいがちです。
でも座った状態で椅子を動かせば、椅子の重さやあなたの体重が床に負担となります。
この時、床に傷がつきやすいのです。
でもこうした行為は比較的よくやってしまいますよね? そこでおすすめしたいのが椅子の脚に取り付ける「キズ防止カバー」です。
いろいろなタイプがありますが、きちんと対策をしていれば椅子の移動が原因で床に傷がつくのを防ぐことができます。
あくまでも「故意につけてしまったキズ」でなければ現状回復の対象にはなりませんから、入居の時点でキズ防止対策をしっかりとしておくことが大事なポイントです。
5. まとめ
退去するときの原状回復義務は、一般的な入居者が持っているイメージと国土交通省のガイドラインによる定義では大きくちがっています。
このことをきちんと理解しておかないと、退去時に、本来払うべきではない修繕費用を支払うことになりかねません。
あらかじめ原状回復が必要となる事例を知っておくことで、どこまでが本来負担すべき修繕費用なのか、イメージをつかんでおくことが大切です。
本来負担すべき修繕費用をイメージしておくことで、退去時の原状回復をめぐるトラブルを防ぐことにもつながるはずです。
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